大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和52年(ネ)3170号 判決 1980年2月28日

控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 小川喜久夫

被控訴人 甲野花子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  求める判決

1  控訴人

原判決を取消す。

控訴人が原判決別紙物件目録記載の各土地につき所有権を有することを確認する。

被控訴人は控訴人に対し、前項記載の各土地につき千葉地方法務局我孫子出張所昭和四七年四月二一日受付第五六二二号をもってなした同月五日付贈与を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

本件控訴を棄却する。

二  主張

1  控訴人

「請求原因」

(一)  原判決別紙物件目録記載の各土地(以下本件各土地という)は控訴人の所有である。

(二)  本件各土地には被控訴人のため控訴の趣旨記載の各登記がある。

(三)  被控訴人は、本件各土地を昭和四七年四月五日控訴人から贈与を受けたとし、これが控訴人の所有であることを争う。

よって、控訴人は被控訴人に対し、本件各土地が控訴人の所有であることの確認と、前記各登記の抹消登記手続をすることを求める。

2  被控訴人

「請求原因に対する認否」

認める。

「抗弁」

被控訴人は、控訴人から昭和四七年四月五日本件各土地の贈与を受けた。

3  控訴人

「抗弁に対する認否」

否認する。

「再抗弁」

仮りに、昭和四七年四月五日控訴人と被控訴人との間に本件各土地の贈与契約が成立したとしても、控訴人と被控訴人とは昭和四四年六月二日婚姻届出をなし現に同居中の夫婦であるが、控訴人は被控訴人に対し昭和五四年九月二七日の本件当審第五回口頭弁論期日において夫婦間の契約である前記贈与契約を取消す旨の意思表示をした。

三  証拠《省略》

理由

一  本件各土地がもと控訴人の所有であり、同土地につき控訴人主張の各登記が存することは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると、控訴人と被控訴人とは昭和四四年六月二日婚姻届出をなした夫婦であり、その間に子はいないこと、控訴人にはかって妻春子(昭和二八年八月三日婚姻届出、同二九年三月一日協議離婚届出)、同夏子(昭和三一年三月六日婚姻届出、同三三年四月一日協議離婚届出)、同秋子(昭和三四年九月四日婚姻届出、同四三年一二月二五日死亡)がおり、右夏子との子一郎(昭和三一年三月二日生)、右秋子との子二郎(昭和三五年一一月二九日生)がいること、被控訴人は控訴人と婚姻後、右一郎、二郎を養育していたが、昭和四七年二月、二郎の養育のことで控訴人と争い一時家を出て実家に帰り、間もなく家に戻ったこと、その後控訴人は同年三月二八日我孫子市役所湖北支所において印鑑登録変更申請手続をなしたうえ印鑑証明書の交付を受けたこと、控訴人及び被控訴人は同年四月二〇日訴外田口義勝に対し前記印鑑証明書を添えて本件各土地につき被控訴人のために同月五日贈与を原因とする所有権移転登記申請手続を委任したことが認められ(る。)《証拠判断省略》以上認定の各事実によれば、控訴人は被控訴人に対し被控訴人主張の時に本件各土地を贈与し、これに基きその所有権移転登記を了したものと認められる。

二  次に、夫婦間の贈与契約の取消について考えるに、民法七五四条にいう「婚姻中」とは、単に形式的に婚姻が継続しているだけではなく、実質的にもそれが継続していることをいうものと解すべきであるから、婚姻が実質的に破綻している場合には、それが形式的に継続しているとしても同条の規定により、夫婦間の契約を取り消すことは許されないものと解するのが相当である(最高裁昭和四二年二月二日判決、民集二一巻一号八八頁参照)。

本件において、控訴人が昭和五四年九月二七日の本件口頭弁論期日において被控訴人との間になした本件贈与契約を取消す旨の意思表示をしたことは訴訟上明らかであるが、《証拠省略》によれば、右取消当時、控訴人と被控訴人とは本件土地上に存する控訴人所有の家屋に同居している夫婦ではあったけれども、控訴人は被控訴人を好かず別れたいと思っており、被控訴人も控訴人と離婚する意思はないと供述するものの、昭和五〇年一二月に千葉家庭裁判所松戸支部に離婚調停の申立をなしたが本件訴訟が提起されたために右申立を取下げたもので、現に食事も双方銘々に料理したものを各別に食べるなどおよそ通常の夫婦の同居生活というには程遠い状態にあり、夫婦関係は破綻に瀕していることが認められ、このような場合には民法の右法条を適用すべきものではないというべきであるから、控訴人の取消の意思表示はなんら効力を生じない。

三  よって、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきであるから、右と同旨に出た原判決は正当であり本件控訴は理由がないので民訴法三八四条に従いこれを棄却することとし、控訴費用の負担について同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 手代木進 上杉晴一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例